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建物の使用貸借について借主の家族に使用借権の相続が認められた事例

2007/02/28 10:05

 判例紹介



 建物の使用貸借について貸主と借主の家族の間には貸主と借主本人との間と同様な人的関係があるとして使用借権の相続が認められた事例 東京高裁平成13年4月18日判決、判例時報1754号)



(事案の概要と争点)
 、AはB夫婦の子供として育てられ、昭和26年Bが本件建物を建てた後も一時期を除いてB一家と同居していた(なおBの夫は昭和34年死亡)。AはY1と昭和45年結婚し、その頃からY1もその子Y2もA及びBと同居を始め、以後Aら一家は平成5年9月までの23年間Bと本件建物で同居して生活を共にしBの面倒を見てきた。
 Bはその後本件建物を出て娘のX1と同居するようになったが、Aら一家に本件建物の明渡しを求めることはなかった。



 、Bは平成8年に死亡、X1らが本件建物を相続した。Aは平成9年に死亡した。そこでX1らは本件建物の所有権に基いて、Aの死亡後も本件建物に居住し続けているY1Y2親子に対し、本件建物の明渡しを求めた。なお、Aからもその相続人Y1らからも、本件建物の所有者であるB又はその相続人X1らに対し家賃が支払われていたことはなかった。



 、Y 1ら親子は本件建物に居住し続けることができるか、又は、明渡さなければならないか、これが本件の争点である。



(判決要旨)
 、 建物所有者BとAとの法律関係 AはB夫婦の実子同然に育てられてきたこと、AY1Y2ら一家は23年間Bと共同生活を送りBの面倒を見てきたこと、Bが家を出て同居が終わったあともBがAら一家に本件建物の明渡しを求めたことがないこと、などに鑑みれば、Bが家を出たころ、BとAとの間で黙示的に(暗黙のうちに)本件建物の使用貸借の合意が成立したものと解することができる。



 2、 Y1らはAの権利を承継できるか 民法599条は借主の死亡を使用貸借の終了原因としている。これは使用貸借関係が貸主(B)借主(A)の特別な人的関係に基礎を置くものであることに由来する。しかし、本件のようにBとAとの間に実親子同然の関係があり、BがAの家族と長年同居してきたような場合、BとAの家族との間には、BとA本人との間と同様の特別な人的関係があるというべきであるから、このような場合に民法599条は適用されないと解するのが相当である。



 そうするとYらはAの借主としての地位を相続により継承し、他方、X1らは貸主としての地位を相続により承継したことになる。よって、Y1らは明渡す必要はない。



(寸評)
 妥当な判決である。ABの関係が賃貸借ならこのような問題は生じない。なぜなら、Aの賃借権は配偶者Y1と子Y2に当然相続されるからである。
 本件は、貸主と借主の相続人との人的関係を基礎に民法599条の適用を否定したところに意義がある。



(東借連常任弁護団)


東京借地借家人新聞より




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室内に多量のゴミを放置したことが契約解除の理由になるとされた事例 

2007/02/27 12:20

 判例紹介


 アパートの賃借人が室内に社会常識の範囲をはるかに超える著しく多量のゴミを放置したことが、賃貸借契約の解除事由になるとされた事例 東京地裁平成10年6月26日判決。判例タイムス1010号272頁)


  (事案)
 Aは共同住宅の所有者(賃貸人)。Bはその賃借人。 Aは平成元年10月、Bとの間で2年間の約定で、共同住宅の1室を賃貸し、更新を重ねていた。


 Aは平成10年2月に、室内に空き缶、空き瓶等のゴミを放置していることを理由に契約解除した。 A・B間の契約には、賃借人は居室内において、危険、不潔その他近隣の迷惑となるべき行為をしてはならない旨の特約条項があった。


 Aの契約解除事由の存否が争点となったが、Aの主張が認められた事案。


(判旨)
 「以上の事実によれば、Bは、貸室内において危険、不潔、その他近隣の迷惑となるべき行為をしたということができ、Aとの間に締結した賃貸借契約10条に違反したことが認められる。
 確かに、信頼関係を基礎とする継続的な賃貸借契約の性質上、貸室内におけるゴミ放置状態が多少不潔であるからといって、そのことが直ちに賃貸借契約の解除事由を構成するということはできない。 しかしながら、本件では、賃貸人から再三の注意を受けてきたにもかかわらず、事態を改善することなく2年以上の長期にわたって、居室内に社会常識の範囲をはるかに超える著しく多量のゴミを放置するといった非常識な行為は、衛生面で問題があるだけでなく、火災が生じるなどの危険性もあることから、Aやその家族及び近隣の住民に与える迷惑は多大なものがあるといえるのであって、このことは、賃貸借契約の解除事由を優に構成するものといわざるを得ない」


(寸評)
 これまで、同種の事案として、犬猫の餌付けなどをめぐって争われたものがある。


 契約の特約として一定の行為を禁止する条項があることが多いが、どの程度の違反行為が契約解除の事由となるかは、個々の事案に即して判断することになろうが、具体的な違反行為が信頼関係を破壊するものでなければ、契約解除の効力を認めないというのが、判例の定着した考え方である。


 本件は、契約解除を肯定した事例として参考になる。


(東借連常任弁護団)


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店舗等を目的とする賃貸借契約の保証金は敷金の性質がないとした事例

2007/02/26 09:57

  判例紹介
 
店舗等を目的とする建物賃貸借契約の際に保証金として支払われた賃料の約22.5ヶ月分に相当する金員が敷金としての性質を有しないとされた事例 大阪高裁平成14年4月17日判決、判例タイムズ1104号)



(事案の概要)
 賃借人は、昭和59年3月、ショールームの使用目的で、契約期間10年、賃料443万円、敷金1283万円、保証金9977万円の約定で賃借した。



 保証金については、10年間据置のうえ翌年から5年の年賦で返還するが賃貸借契約日から5年内に解約したときは20パーセントの解約金が控除されるという特約が付いていた。



 賃借人は、昭和60年8月、賃料を支払えなかったので、賃貸借契約を解約して建物を明渡し、敷金の返還を受けた。しかし、保証金は据置期間未到来のためにそのままになっていたところ、国税が保証金返還債権を差し押さえ、家主に対して、保証金9977万円の取立を請求した。



 家主は、賃借人に対する未払い賃料、期間内解約による違約金、共益費、電気料金、現状回復費等の清算が済んでないので、保証金返還額は1066万円分しか残っていないと争った。そこで本件保証金は、敷金のように賃貸契約上の債務を清算すべき性質のものなのかどうかが問題となった。



(判決要旨)
 「本件保証金が差し入れられたのは、本件建物の建築資金が必要な時期であって、本件保証金は多額であるほか無利息で返還する約定があることからすれば、銀行からの借入金に比して金利分の節約ができることから賃貸人にとって有利であることが明らかであるから、通常であればこれを建設資金などに充当すると考えられるし、賃貸人がこの保証金を他に使ったことを客観的に説明しない以上、本件保証金は本件建物の建設資金に充当することを主目的として差し入れられたものと推認すべきである。



 本件保証金の敷金としての担保機能の有無について検討する。本件契約では、敷金と保証金を別個に規定し、敷金については、賃借物件明け渡し後債務完済を確認したときに返還する旨規定しているのに、本件保証金については本件据置規定が存在するだけで、賃貸借終了時の返還義務の有無については何ら触れていないので、敷金と同様の担保的機能を有し賃借物件の明け渡し時に契約上の債務と清算した上で賃借人に返還すべきものであるとはいえない。



(説明)
 保証金の性質については、建設協力金、敷金、即時解約金、権利金のいずれか、又はこれらを併せ持ったものなど、さまざまであり、契約文言、金額、差し入れの趣旨などから、賃貸借当事者間の意思を解釈して結論される。本件では、金額が多額あること、返還時期が契約終了と無関係であること、使途が建築資金であること等から、敷金ではないとされた。



(東借連常任弁護団)


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対抗力ある借地権は競売中に建物が滅失しても土地買受人に対抗できる

2007/02/25 01:27

     判例紹介



 抵当権設定時に対抗力を有していた借地権は、競売中に借地上の建物が滅失しても、土地買受人に対して借地権を対抗できるとされた事例 平成12年5月11日東京高裁判決、金融・商事判例1098号)



(事案)
 借地人は、借地上の建物について所有権保存登記をして借地していたが、地主は、昭和63年に土地に抵当権を設定してその登記をした。 平成3年、抵当権者が抵当権の実行をして競売手続が開始した。借地人は、平成5年に、借地上の建物を取壊して新建物を建築し、平成6年に保存登記をした。執行裁判所は、賃借権があるものとして、売却条件を定め、売却したところ、買受人が決まった。買受人は、借地人に対して、借地権はないとして、建物収去、土地明渡訴訟を提起した。 横浜地方裁判所は、借地権を買い受けた人に対抗するには土地の競落時に建物の保存登記を必要とするが、旧建物は滅失しているので、旧建物の保存登記による対抗力は消滅したとして、借地人負訴の判決をした。しかし、東京高裁は、要旨次のような理由で、逆転判決をした。



(判決要旨)
 「民事執行法は、不動産を目的とする担保権の実行としての競売(不動産競売)において、不動産の上に存する抵当権が売却により消滅することを規定し、消滅する権利を有する者に対抗することができない不動産に係る権利の取得は、売却によりその効力を失うと規定している。これによれば、抵当権者に対抗することができない借地権の取得は売却によりその効力を失い、対抗できる借地権は効力を失わないことになる。民事執行法は、土地の買受人が借地権を引き受けるかどうかは、その借地権が抵当権に対抗できるかどうか、つまり、抵当権を設定したときに借地権が対抗できるかどうかを問題としているのであって、競落時に対抗できるかどうかではない。なぜなら、競売によって買受人に移転される権利は、抵当権者が把握していた権利にほかならないからである。 本件では、抵当権が設定された当時には借地権は登記のある建物によって対抗できたのであるから、その後、その建物が滅失したとしても、当該抵当権に対して対抗力を失うことはなく、借地人としては、いったん生じた対抗力を維持するために、建物自体を維持したり、所有権保存登記を継続していなければならないわけではない。」



(説明)
 本判決は、抵当権による競売の性質をこまかく論述し、借地権の対抗力の有無は、競売時ではなく、抵当権設定時点で決めるべきであるとした。その上で、土地が競売されたときは借地上には旧建物は滅失して存在しないが、抵当権設定時に登記のある旧建物が存在して対抗力があったのであるから、その効力は、継続していると判断した。



(東借連常任弁護団)



東京借地借家人新聞より


 借地人にとっては注目される判決である。この判決に関してはこちらも御覧ください。



(東借連常任弁護団)


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自力救済条項があっても侵入したり鍵を替える行為を違法とした事例

2007/02/24 09:37

   判例紹介



 建物賃貸借契約書に自力救済条項があっても、建物内に侵入したり鍵を取り替える行為が違法であるとされた事例 札幌地裁平成11年12月24日判決。判例時報1725号)



(事実関係)
 1、賃借人X(原告)は平成10年7月、札幌市内のマンションの1室を賃借し妻とともに居住した。Y(被告)はこのマンションの管理会社である。



 2、賃貸借契約書には次のような特約があった。 「賃借人が賃借料の支払を7日以上怠ったときは、賃貸人は直ちに賃貸物件の施錠をすることができる。また、その後7日以上経過したときは、賃貸物件内にある動産を賃借人の費用負担において賃貸人が自由に処分しても賃借人は異議の申立てをしないものとする」(本件特約)



 3、Xは、「部屋に雨漏りがする、かびが発生した」など苦情を述べたが、Yは、かびによる被害の弁償には応じられない旨回答した。
 そこでXは同年10月分から賃料の支払を停止した。するとYはXに対し、「督促及びドアロック予告通知書」、続いて「最終催告書」を送り付け、そこには、一定日時までに連絡がない場合には、以後何ら勧告することなくドアロックし部屋への立入りを禁止する旨記載されていた。



 4、管理会社Yの従業員は右日時の最終日、X夫婦が外出して留守の間、本件特約があることを根拠に、部屋に立ち入って、部屋内の水を抜き(水道管の破裂を防ぐため)、ガスストーブのスイッチを切り、浴室の照明器具のカバーを外すなどした上、部屋の錠を取り替えた。



 5、そこでXはYに対し、その行為は違法だとして損害賠償(慰謝料)の支払を求めて提訴した。



(判決)
 1、本件特約は、賃貸人側が自己の権利(賃料債権)を実現するため、法的手法によらずに、通常の権利行使の範囲を超えて、賃借人の平穏に生活する権利を侵害することを内容とするものである。



 2、このような手段による権利の実現は、近代国家にあっては、法的手続によったのでは権利の実現が不可能又は著しく困難であると認められる場合のほか、原則として許されないものというほかなく、本件特約は、そのような特別の事情がない場合にも適用される限りにおいて、公序良俗に反し、無効である。



 3、本件の場合には右の「特別の事情」は認められず、Yの行為は違法であるからXに対し慰謝料10万円支払うべきである。



(寸評)
 このような特約(自力救済)が入っている契約書はよく見かける。この判決の考え方はごく常識的であり、悪徳業者に対する警告として意味がある。                             



(東借連常任弁護団)


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家賃減額を請求した場合に裁判確定前の家賃額は従前と同額とした事例

2007/02/23 10:01

 判例紹介



 建物賃借人が賃料減額請求をした場合借地借家法32条3項が定める「賃貸人が相当と認める額」の賃料支払請求権は、賃料減額の意思表示が到達した時点で当然に発生しその額は特段の事情がない限り従前の賃料額と同額であるとされた事例  (東京地裁平成10年5月29日判決。判例タイムズ997号221頁)



(事案の概要)
 賃貸人Xは、賃借人Yから賃料減額請求を受けたが、右減額請求後Yが減額後の賃料の支払いを継続したため、Yに対し従前の賃料額との差額賃料の支払いを求め本件訴えを提起した。これに対しYは、Xの請求は借地借家法32条3項に定める賃貸人からの相当賃料の支払請求であるが、Xは本件訴訟に至るまで相当賃料の支払を求める意思表示をしていないから支払義務はないとして争った。



(判決)
 本判決は「賃料の減額に係る借地借家法32条の趣旨は、賃料の減額請求がされた場合においては、減額の意思表示の到達時において賃料は適正額に当然に減額されたことになるが、右適正額への減額を正当とする裁判が確定するまでの間は賃貸人も右適正額を正確に知ることは困難であるから、裁判確定までの間は賃借人には『賃貸人が相当と認める額』の賃料支払義務があることとし、裁判確定後は既払額と適正額の差額のみならず年一割の割合による受領の時からの利息をも賃貸人が賃借人に返還しなければならないこととして、当事者間の均衡を図ったもの」とした上で「減額を正当とする裁判が確定するまでの『賃貸人が相当と認める額』の賃料支払請求権は、賃料増額請求がされた場合においては賃借人は格別の意思表示を要することなくその相当と認める額を支払えば足りるとされていることとの均衡を考慮すれば賃貸人の請求等の意思表示により発生する形成権ではなく、賃料減額の意思表示の到達時に当然に発生する権利であるとするのが相当である。また、右の『賃貸人が相当と認める額』は賃貸人が支払を求める具体的な額を賃借人に通知するとか、賃貸人が減額請求後において従前賃料に満たない額を格別の異議を述べないまま長期間受領し続けるなどの特段の事情のない限り、従前の賃料額と同額であると推定することが相当である」旨判示し、本件ではXがYの減額請求後直ちにこれを拒絶する回答をしているので右特段の事情はないとして、Xの請求を認容した。



(寸評)
 賃料減額請求をした場合、従前の賃料額を支払うか減額後の賃料額を支払うかが常に問題となるが、家主に前者の請求権があることを認めたものである。本判決によれば、借家人が後者を選択した場合には賃料不払いで契約が解除される事態も発生する。減額請求後も賃料減額の判決があるまでは従前の賃料額を支払うのが無難である。   1999.8.



(東借連常任弁護団)


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*契約が期間満了で終了した場合はその終了を再転借人には対抗できない

2007/02/22 11:15

 判例紹介



  事業用ビルの賃貸借契約が期間満了により終了した場合、賃貸人は信義則上その終了を再転借人に対抗できないとされた事例 最高裁平成14年3月28日判決、判例時報1787号)



(事案の概要)
  1、 (原告)は、ビルの賃貸、管理を業とするA社の勧めにより、Xの土地上にビルを建築してA社に一括して賃貸し、A社から第三者に店舗又は事務所として転貸させ、賃料の支払を受けるということを計画しビルを建築した。



  2、 そしてXとA社は、ビル全体について期間20年の賃貸借契約を締結した(本件賃貸借)。同時にA社は、Xの承諾を得てその一室(店舗)をBに転貸し、さらにBは、XとA社の承諾を得てYに再転貸した(本件再転貸借)。現在もYが店舗として使用している。



  3、 A社は、平成8年にXとの賃貸借の期間20年が満了するに際し、転貸方式によるビル経営が採算に合わないとして撤退することとし、Xとの賃貸借契約を更新しない旨の通知をした。そこでXはBとYに対し、A社との賃貸借契約が期間満了により終了する旨通知した。



  4、 XはYに対し本件店舗の明渡しを求めたが、Yは、信義則上、XとA社間の賃貸借の終了をもって承諾を得た再転借人であるYに対抗することはできないと争った。



(判決要旨)
 本件再転貸借は、本件賃貸借の存在を前提とするものであるが、本件賃貸借に際し予定され、前記のような趣旨、目的(ビルの各室を第三者に店舗又は事務所として転貸することを当初から予定していたこと、A社の知識、経験等を活用して収益を上げさせること、Xは自ら個別に賃貸する煩わしさを免れ、かつ、A社から安定的に賃料収入が得られること)を達成するために行われたものであって、Xは、本件再転貸借を承諾したにとどまらず、本件再転貸借の締結に加功し、Yによる本件転貸部分の占有の原因を作出したものというべきであるから、A社が更新拒絶の通知をしても本件賃貸借が期間満了により終了しても、Xは、信義則上、本件賃貸借の終了をもってYに対抗することはできず、Yは、本件再転貸借に基づく本件転貸部分の使用収益を継続することができると解すべきである。Xの敗訴。



(短評)
 第一審はX敗訴、第二審はX勝訴、そして第三審はまたX敗訴という具合に結論が分かれた。本件は、いわゆるサブリースの事案について、賃貸人(X)が賃貸借の終了をもって信義則上転借人(Y)に対抗できない場合のあることを判示した初めての最高裁判例であるとされている。



 XとA間の賃貸借契約が合意解除された場合には、Xは転借人Yに対抗できるというのは古くから確立された判例であったが、この判決は、合意解除ではなく、期間満了により終了させた場合について、しかも、それがサブリースである場合について、新しい判断を示したものである。



(東借連常任弁護団)



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*地代自動増額特約による増額に対し借地人の減額請求が認められた事例

2007/02/21 10:56

 判例紹介



  地代自動増額改定特約に基づく地代の増額が借地借家法11条1項の趣旨に照らし不相当になったとして、同特約による地主の地代増額請求が認められず、借地人による地代減額請求が認められた事例 最高裁判所第1小法廷平成15年6月12日判決。判例時報1826号47頁)



   (事案の概要)
  Xは、昭和62年7月1日、Yから建物所有の目的で本件土地を賃借したが、その際、本件土地の地代について、3年後に15%増額し、その後も3年ごとに10%ずつ増額するという内容の地代自動増額改定特約を締結した。当時、本件土地を含む東京都23区内の地価は急激な上昇を続けており、以後も上昇を続けるものと考えられていた。



   ところが、本件土地の1u当りの価格は、昭和62年7月1日が345万円で、平成3年7月1日には367万円に上昇したが、平成6年7月1日には202万円に、平成9年7月1日には126万円に下落した。他方、本件地代は、本件特約に基づき、平成3年7月1日には15%、平成6年7月1日にはさらに10%増額された。



   しかし、Xは、平成9年7月1日の地代改定にあたり、本件地代を増額することなく従前の地代の支払を継続するとともに、同年12月24日には、本件地代を20%減額するようYに請求し、Yは本件特約により増額された地代の支払いを求めた。



   そこで、Xは地代減額請求により減額された地代月額の確認を求め、Yは本件特約により増額された地代月額の確認を求め提訴した。原審(控訴審)は、本件特約が失効したとはいえないとして、本件特約に基づく地代の自動増額を認め、Xの地代減額請求を認めなかった。



   (判決)
  本判決は、「地代等自動改定特約は、その地代等改定基準が借地借家法11条1項の規定する経済事情の変動等を示す指標に基づく相当なものである場合には、その効力を認めることができる」が、「その地代等改定基準を定めるに当たって基礎となっていた事情が失われることにより、同特約によって地代等の額を定めることが借地借家法11条1項の規定の趣旨に照らして不相当なものとなった場合には、同特約の適用を争う当事者はもはや同特約に拘束されず、これを適用して地代等改定の効果を生ずることはできない。また、このような事情の下においては、当事者は、同項に基づく地代等増減請求権の行使を同特約によって妨げられるものではない」として、地価が当初の半額以下になった平成9年7月1日の時点では、本件特約は地代増額の効果を生ぜず、同年12月24日時点におけるXの地代減額請求権の行使に妨げはないとして、Xの請求を認めた。



   (寸評)
  地代等自動改定特約につき、借地借家法11条1項との関係に着目してその効力を論じた初めての最高裁判決であり、バブル期に締結された地代等自動増額改定特約に苦しむ借地借家人に参考になる判決である。       (2003.11.)



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借地上の建物が火災による消失で滅失した場合の掲示と借地権の対抗力

2007/02/20 09:16

  判例紹介



  借地上の建物滅失後の掲示と借地権対抗力 東京地裁平成12年4月14日判決、金融商事判例1107号)



 (事案の概要)
 借地人の建物は、平成10年12月30日、火事で燃えてしまった。借地人は、平成11年3月18日、借地借家法10条2項による掲示(消失建物及び建物建築予定等の必要事項)をしたが、何者かによってその掲示が取り外された。そこで、同年3月25日、26日にも同様の掲示をしたが、これらも取り外されていた。本件土地は、その間に売却されて、平成11年4月23日、被告に買われて所有権移転登記がなされてしまった。借地人は、被告に対して、借地権の確認を求める訴訟を提起したが、被告は、本件土地を買い受けた当時、本件土地上には建物がなく、建物が存在していたことを示す掲示もなかったので、借地権を対抗することができないと、争った。



  (判決要旨)
  「法10条2項の規定は、建物が滅失して借地上に存在しなくなっても、滅失した建物の残影があれば、それからその土地上には土地利用権が設定されているとの推測が働き、建物登記簿も調べて借地権の存在を知ることができるとの考えから設けられたものである。すなわち、無効となった登記に一定の条件の下に余後効を認めるとともに、もはや建物が存在しない現地と建物登記を結び付ける方法として掲示を要求し、それに滅失建物を特定する事項を記載すべきものとした。法10条2項は、掲示上の表示と滅失した建物登記とが一体となって暫定的に借地権の対抗力を維持しえるものとした。



 借地上の建物の滅失により、掲示がなされるまで一時的にその借地権の対抗力は消滅するのであり、建物滅失後この掲示をするまでの間にその借地について第三者が権利を取得した場合には、その後に掲示を行っても借地権を対抗することはできない。また、法10条2項の定める掲示は滅失した建物の残影に他ならないから、掲示が一旦なされた後に撤去された場合には、その後にその土地について借地権の負担のない所有権を取得した第三者に対しては、借地権を対抗することができなくなる。第三者に対して借地権の対抗力を主張するためには、掲示を一旦施したというだけでは不十分であり、その第三者が権利を取得する当時にも掲示が存在する必要がある。



  (説明)
 借地権を第三者に対抗するには(認めさせるには)、建物が借地人名義で登記されていること、建物が存在することが必要。建物が火事、建替で滅失したときは、「滅失建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示」すれば、この掲示が建物の身代わりとなる。この掲示は新建物が建築されて登記されるまでの間継続させないといけない。掲示の保全につき、注意を喚起させる事例である。



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貸ビルの譲渡で新旧家主間で合意しても借主の敷金返還を保護した事例

2007/02/19 00:42

 判例紹介



 不動産の賃料債権の差押があった後に当該不動産が第三者に譲渡されても賃借人は債権者の取立てに応じなければならない。東京高裁平成10年3月4日判決、判例タイムス1009号)



  (事案)
 負債を抱えていた賃借人は、債権者から自分が賃貸した賃料を差し押えられてしまった。その後、賃貸人は、賃貸建物を他人に譲渡して名義変更をした。賃借人は、賃料を新しい建物名義人に支払い、差し押さえた債権者への賃料支払を拒絶した。そこで、債権者が賃借人に対して、差し押さえた賃料を取り立てる訴訟を起こした。
 判決は、賃借人は、賃料を新建物所有者に支払ったとしても、債権者への支払を拒絶できないと判断した。



  (判決の要旨)
  「不動産の賃料債権に対する差押の効力が生じた後に、右不動産が第三者に譲渡され、所有権移転登記がされた場合には、右賃貸借関係は譲受人に引き継がれるが、差押の効力はそのまま継続し、譲受人たる新賃貸人を拘束すると解するのが相当である。
 不動産の賃料債権について差押の効力が生じた後に執行債務者(賃貸人のこと)が、その賃料債権を第三者に譲渡した場合、差押債権者には対抗できない。その不動産が第三者に譲渡された場合には、その賃貸人の地位は当該第三者に移転する。賃貸人の地位は、賃料債権者たる地位と不動産を賃借人に使用収益させる債務を負担する地位とから成るが、この場合の賃料債権の移転は、すでに差押があるから差押債権者が優先する。(不動産を賃借人に使用収益させる債務を負担する地位だけが新所有者に移動する。)
 不動産の譲渡による賃貸人の交代の場合には、賃料債権について引き続き差押の拘束を受けることにしても賃借人が何ら不利益を受けるものではない。」



  (説明)
  賃料が賃貸人の債権者によって差し押さえられるケースが、最近では多いので、係争事例の一つとして紹介する。賃料が差し押さえられた場合の注意点は、賃料を二重に請求されることがないようにすること、処置を誤って賃料不払いとなり契約を解除されることがないようにすることである。本件では、賃借人は六人いたが、賃料差押後に賃貸建物が譲渡されたため、新しい所有者に賃料を支払ったことから、賃料を差し押さえていた債権者から二重に賃料の支払請求を受けたケースである。判決は、賃料が差し押さえられた後に建物が譲渡されても賃料差押の効力は続くので、新所有者に支払ってはならないと述べている。この取り扱い自体は通常のことである。賃料が差し押さえられたとき、賃貸人からさまざまな働きかけを受けることがあり、その説明がどこまで正確なのかの判断が付きにくいこともあるから、組合とよく相談して対処することが必要である。



(東借連常任弁護団)


東京借地借家人新聞より




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*賃料差押え後明渡した場合敷金を賃料に充当できるとした事例

2007/02/18 13:18

  判例紹介



   抵当権者が物上代位に基づき賃料を差押え後、賃貸借契約が終了し目的物を明け渡した場合、賃借人が敷金を賃料に充当することができるとされた事例 最高裁平成14年3月28日判決、判例時報1783号42頁)



   (事案の概要)
  X(信託銀行=抵当権者)は、A(建物所有者)との間で、A所有建物について根抵当権を設定した。AはB(賃借人)に対して建物を賃貸し、BはY(転借人)に対しさらに建物を賃貸した。
 転貸借契約において、YはBに対し敷金1000万円を預託した。
  XはAが借入金の返済をしないため、根抵当権の物上代位権に基づき、BがYに対して有する賃料債権を差押えた。
 その後、YはBとの間の建物賃貸借契約を解除し、建物を明け渡した。 そして、YはXに対して、敷金により賃料支払債務は消滅したと主張した。



   (裁判)
  1審は、「敷金返還請求権は、物上代位による差押え後に発生したものであるからYはXに対抗できない。」として、Xの請求を認めた。



  2審は、「賃貸借契約が終了し目的物が明渡されたときは、賃料は当然敷金が充当される結果、差押えにかかる賃料債権は消滅すると解さざるを得ない。」として、Xの請求を棄却した。



  最高裁は、「敷金の充当による未払賃料等の消滅は、敷金契約から発生する効果であって相殺のように当事者の意思表示を必要とするものではないから当然消滅の効果が妨げられないこと、抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権を差押える前は、原則として抵当不動産の用益関係に介入できないのであるから、抵当不動産の所有者等は敷金契約を締結するか否かを自由に決定することができることから、敷金が授受された賃貸借契約にかかる賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差押えた場合においても、当該賃貸借契約が終了し、目的物が明け渡されたときは、賃料債権は敷金の充当によりその限度で消滅する」と判示した。



   (短評)
  賃貸人の資力が悪化した際に、賃借人が賃貸借契約を終了させて賃借物件を明け渡せば敷金を賃料債権に充当することによって回収する方策を認めたものである。なお、抵当権者が物上代位権を行使して転貸賃料債権を差押えることは原則として否定されている。(最高裁平成12年4月14日判決)   2002.8.



(東借連常任弁護団)


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 上記最高裁判決に関してはこちらを参照して下さい。最高裁判決が全文掲載されている。





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*借地人が建物買取請求権を行使すると明渡強制執行の阻止理由になる

2007/02/17 00:31

  判例紹介



 建物収去土地明渡判決と建物買取請求権 最高裁平成7年12月15日判決、判例タイムズ897号)



 (事案)
  借地人は、期間満了に際して更新を拒絶され、正当事由有りということで、借地上の建物を収去して借地を明け渡せという判決を受けた。借地人は、建物収去土地明渡の強制執行を実行されてしまう立場になったが、借地法に基づき建物買取請求権を行使して、それを理由にして、強制執行を許さないと争った。1審、2審とも借地人の請求を認め、最高裁も同様の判決をした。



  (判決要旨)
  「借地上に建物を所有する土地の賃借人が、賃貸人から提起された建物収去土地明渡請求訴訟の事実審口頭弁論終結時まで(高裁が結審するまでという意味)に借地法4条2項の建物買取請求権を行使しないまま、賃貸人の右請求を認容する判決がなされ、同判決が確定した場合であっても、賃貸人は、その後に建物買取請求権を行使した上、賃貸人に対して右確定判決による強制執行の不許を求める請求異議の訴えを提起し、建物買取請求権行使の効果を異議の事由として主張することができる。



  なぜなら、建物買取請求権は、前訴確定判決によって確定された賃貸人の建物収去土地明渡請求権の発生原因に内在する瑕疵に基づく権利とは異なり、これとは別個の制度目的及び原因に基づいて発生する権利であって、賃借人がこれを行使することにより建物の所有権が法律上当然に賃貸人に移転し、その結果として賃貸人の建物収去義務が消滅するに至るのである。



  したがって、賃借人が前訴の事実審口頭弁論終結時までに建物買取請求権を行使しなかったとしても、実体法上、その事実は同権利の消滅事由に当るものではなく訴訟法上も、同訴確定判決の既判力によって同権利の主張が遮断されることはない。



  そうすると、賃借人が前訴の事実審口頭弁論終結時以降に建物買取請求権を行使したときは、それによって前訴確定判決により確定された賃借人の建物収去義務が消滅し、前訴確定判決はその限度で執行力を失うから、建物買取請求権行使の効果は、民事執行法35条2項所定の口頭弁論の終結後に生じた異議の事由に該当する。」



   (説明)
  借地期間到来に際して、更新を拒絶されたときは、借地人は借地上の建物を地主に買い取ってもらう権利建物買取請求権がある。この建物買取請求権は、地主から起こされた土地明渡請求訴訟の最中に行使する義務はなく、いつ行使してもよい。建物買取請求権を行使すると、建物の所有権は地主に移転し、借地人は、建物代金の請求権を取得する。その結果、借地人は、建物を収去する義務がなくなり、また、建物代金が支払われるまでは、建物からの退去を拒否することができる。



  この判決は建物買取請求権行使の効果が請求異議事由(明渡の強制執行を阻止する理由)になることを初めて認めた最高裁判決である。



(東借連常任弁護団)


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家主が修繕義務を履行しなかった場合その分家賃が減額できるとした事例

2007/02/16 00:26

 判例紹介  



  賃貸人の修繕義務不履行により建物の一部が使用できなくなった場合、賃借人は家賃の減額請求権を有する (名古屋地裁昭和62年1月30日判決。判例時報1251号)



   (事案の概要)
  1 Yは昭和55年6月1日、Xから2階部分を居宅、1階部分をお好み焼屋店舗として使用する目的で本件建物を賃料月額10万円で賃借した。



  2 2階部分には3つの居室があったが、56年9月前からいずれの部屋にも雨漏りがし、特に南側と真中の部屋の雨漏りは、雨天の場合バケツで受けきれず、畳を上げて洗面器等の容器を並べ、Yらが椅子の上に立って、シーツやタオルで天井の雨漏り部分を押さえざるを得ない程であり、押入に入れたふとんが使用不能になったこともあり、本件建物2階部分は、同年9月以前からその少なくとも3分の2以上が使用不能となった。



   YはXに対し、しばしば雨漏りの修繕を求めたが、Xはこれに応じず、右の使用不能状態は、Yが本件建物を明渡した昭和58年7月31日まで続いた。なお、1階店舗部分は、右の雨漏りにより使用不能となることはなかった。



  4 これに対し、Yは56年9月分から賃料の支払を拒絶し、Xに対し、右使用不能部分の割合に応じて賃料を減額する旨意思表示した。



  5 しかし、Xは減額に応じず、Yに対し、56年9月分から明渡し済みの58年7月分までの賃料230万円の支払を求めた。



   (判決)
  本件建物の2階部分の少なくとも3分の2が56年9月1日以降58年7月末日までXの修繕義務の不履行により使用できない状態にあつたことが認められるところ、修繕義務の不履行が賃借人の使用収益に及ぼす障害の程度が一部にとどまる場合には、賃借人は当然には賃料支払義務を免れないものの、民法611条1項を類推して、賃借人は賃料減額請求権を有すると解すべきである。



  本件の場合、右減額されるべき賃料額は、右使用できない状態の部分の面積の本件建物全面積に対する割合、本件賃貸借契約は1階店舗部分とその余の居宅の使用収益を目的としていたところ、Yの右店舗部分自体の使用収益にはさしたる障害は生じなかったこと及び雨漏りの状況等の諸般の事情に鑑み、本件賃料額全体の25%をもつて相当とする。



   (寸評)
  判決はもとより妥当である。家主が修繕義務を履行しなかった場合、2つの対応がある。1つは賃借人側で修繕しその費用を家賃と相殺する方法で、組合がよく利用する。もう1つは本件のように民法611条1項を類推適用する方法である。いずれの方法が良いかは事案によって異なってくる。  2003.8.   



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借地法定更新で更新料支払いの慣習は認められないとした事例

2007/02/15 14:27

 判例紹介



 土地賃貸借契約の法定更新の場合でも更新料の支払義務があるとする慣習は認められないとした事例 平成14年1月24日、東京地方裁判所民事第45部判決。未掲載)


  (事案)
 Xは、東京都墨田区内に土地428.08平方メートルを所有し、これをYに建物所有の目的で賃貸していた。



 右契約が平成12年10月31日の経過により満了するため、Xはその10ヶ月前に期間満了の通知をした。



 YはXに対し、契約更新の希望と更新の際の条件の提示を要請した。



  Xは堅固建物の存在を前提として、契約期間を30年とする場合の更新料を2040万9963円(1平方メートル当たり4万9125円)と提示。



 合意に達しないまま、平成12年11月1日、法定更新となり、XはYに対し、賃貸借契約の更新に当たっては、合意更新であると法定更新であるとを問わず、更新料の支払いが条件になることは、現在では社会的な慣習となっていると主張して、更新料2040万9963円等の支払を求めた事案。Xの請求棄却。



  (判旨)
 「YがXに対して本件賃貸借契約更新の条件の提示を要請したのは、YがXの条件の提示を見て、これに応じるかどうかを検討しようとしたものであって、更新料の支払義務を認めたものということはできない。……また、賃貸借契約の法定更新の場合でも更新料の支払義務があるとする慣習は認められない」



  (寸評)
 法定更新の場合に、更新料支払の義務があるとする慣習はないとするのが判例の立場であることは、周知のこと。それにもかかわらず、依然として、更新料請求の訴訟が提起されるのは、更新料の支払拒絶を明言せずに、条件交渉をする賃借人が多いことをあらわしている。更新料交渉について注意を喚起するために紹介した。       2002.6.



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賃料増額請求権が5年の消滅時効により消滅したとされた事例

2007/02/14 10:10

 判例紹介  



  賃貸人の修繕義務不履行により建物の一部が使用できなくなった場合、賃借人は家賃の減額請求権を有する (名古屋地裁昭和62年1月30日判決。判例時報1251号)



   (事案の概要)
  1 Yは昭和55年6月1日、Xから2階部分を居宅、1階部分をお好み焼屋店舗として使用する目的で本件建物を賃料月額10万円で賃借した。



  2 2階部分には3つの居室があったが、56年9月前からいずれの部屋にも雨漏りがし、特に南側と真中の部屋の雨漏りは、雨天の場合バケツで受けきれず、畳を上げて洗面器等の容器を並べ、Yらが椅子の上に立って、シーツやタオルで天井の雨漏り部分を押さえざるを得ない程であり、押入に入れたふとんが使用不能になったこともあり、本件建物2階部分は、同年9月以前からその少なくとも3分の2以上が使用不能となった。



   YはXに対し、しばしば雨漏りの修繕を求めたが、Xはこれに応じず、右の使用不能状態は、Yが本件建物を明渡した昭和58年7月31日まで続いた。なお、1階店舗部分は、右の雨漏りにより使用不能となることはなかった。



  4 これに対し、Yは56年9月分から賃料の支払を拒絶し、Xに対し、右使用不能部分の割合に応じて賃料を減額する旨意思表示した。



  5 しかし、Xは減額に応じず、Yに対し、56年9月分から明渡し済みの58年7月分までの賃料230万円の支払を求めた。



   (判決)
  本件建物の2階部分の少なくとも3分の2が56年9月1日以降58年7月末日までXの修繕義務の不履行により使用できない状態にあつたことが認められるところ、修繕義務の不履行が賃借人の使用収益に及ぼす障害の程度が一部にとどまる場合には、賃借人は当然には賃料支払義務を免れないものの、民法611条1項を類推して、賃借人は賃料減額請求権を有すると解すべきである。



  本件の場合、右減額されるべき賃料額は、右使用できない状態の部分の面積の本件建物全面積に対する割合、本件賃貸借契約は1階店舗部分とその余の居宅の使用収益を目的としていたところ、Yの右店舗部分自体の使用収益にはさしたる障害は生じなかったこと及び雨漏りの状況等の諸般の事情に鑑み、本件賃料額全体の25%をもつて相当とする。



   (寸評)
  判決はもとより妥当である。家主が修繕義務を履行しなかった場合、2つの対応がある。1つは賃借人側で修繕しその費用を家賃と相殺する方法で、組合がよく利用する。もう1つは本件のように民法611条1項を類推適用する方法である。いずれの方法が良いかは事案によって異なってくる。  (2003.8.)   



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地主は借地人に下水道敷設につき承諾義務を負うとされた事例

2007/02/13 14:57

 判例紹介



  土地賃貸人が賃借人に対し下水道敷設につき承諾義務を負うとされた事例 東京高裁平成9年8月30日 第10民事部判決、判例タイムス1998年10月25日号134頁以 下)



  (事案)
 賃貸人Xら2名が賃借人Yに対し、契約期間満了を理由に建物収去土地明渡を求めた事件とYからXらに対し下水道敷設についての承諾及び妨害差し止めを求めた事件。
 原審はXらの請求を棄却、Yの請求を容認。
 控訴審はXらの控訴を棄却、Yの請求の趣旨の訂正に基づき承諾請求の主文を変更。



    (判旨) 
 「右のような下水道法による規制(前記認定の事実によると、本件土地は、右公共下水道の処理区域内の土地であると認められる。)付近の土地の排水設備の設置状況及び本件土地の所在する場所の環境にかんがみると、本件土地につき排水設備を設置することは、本件土地の利用に特別の便益を与えるというものではなく、むしろ、建物の所有を目的とする本件借地契約に基づく土地の通常の利用上相当なものというべきであるから、賃貸人である控訴人らにおいて、本件土地につき排水設備等を設置することにより回復し難い損害を被るなど特段の事情がない限り、その設置に協力すべきものであると解するのが相当である。



 そして、前記認定の事実関係のもとにおいては、控訴人において、本件土地につき排水設備等を設置することによって回復し難い著しい損害を被るなどの特段の事情があることは認められないから、そうであれば、控訴人らは被控訴人が本件土地につき排水工事及び水洗化設備の新設工事をするに当り、これを承諾し、かつ、右工事の施行を妨害してはならないといわなければならない。」



 (寸評)
 本判決の主文は、「控訴人らは、被控訴人が茅ヶ崎市に対し別紙物件目録1及び2記載の各土地につき公共下水道事業による排水設備水洗化設備の新設工事を申請するに当り、控訴人○○は同目録1記載の土地につき、控訴人○○は同目録2記載の土地につき、それぞれ別紙公共下水道敷設承諾書記載の事項を承認せよ」となっている。



 従来の同種事件の保全処分での主文例より具体的な承諾事項を示し、行政の要求する地主の承諾事項を六項目にわたり承諾させている点は、参考になる。
 主文例として紹介した。



(東借連常任弁護団)



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*抵当権設定前からの賃借人が当該建物に抵当権を設定した場合の対抗力

2007/02/12 03:11

判例紹介



  競売の原因となった抵当権の設定前から建物を賃借している者が、その賃借の後に自分の負債のために当該建物に抵当権を設定してもらった場合、自分の負債については不履行がないときは、賃借権を競落人(買受人)に対抗することができるとされた事例 東京高裁平成12年4月5日決定。判例時報1707号)



(解説)
 一、賃借している建物(土地の場合も同じ)が競売になった場合に、落札して新たな所有者(買受人)となった者と賃借権者との関係が問題の所在である。(ちなみに、競売ではなく、任意の売買で所有者となった者には、賃借人は例外なく賃借権を対抗(主張)できる)。



 1、第1原則賃借権の設定(契約を結ぶだけではなく、実際に占有使用を開始すること。以下、同じ)と抵当権の設定とがどちらが早いかによって決まる。いわば早い者勝ち。賃借権の設定の方が早ければ競売になっても賃借権を維持できるし、遅ければ立退かなければならない。抵当権設定の時期は登記簿によって確認する。



 2、第2原則賃借権設定の方が早くても、賃借人自身が抵当権によって担保される債務(抵当債務)の債務者である場合は、買受人に賃借権を対抗できない。賃借人すなわち抵当債務者の債務不履行があるが故に競売になり家主は建物所有権を失うこととなるのに、当の抵当債務者の賃借権のみが保護されるとすることは著しく衡平と信義にはんする、との理屈からである。



 3、第3原則賃借権設定→一番抵当権設定→二番抵当権設定という順番できて、一番抵当権者が競売に付した場合、賃借人自身が二番抵当権の抵当債務者であって債務不履行に陥り、その抵当権の実行による競売が行われてもやむを得ないという状況が生じている場合にも、右の2と同様の理屈により、賃借権を対抗できない。



 4、第4原則では、右3の場合に、二番抵当権の債務者である賃借人には債務不履行がなかった場合にはどうなるか。これがここで紹介する判例である。いわく、「この場合には、もともとこの賃借権者が抵当債務者となっている抵当権二番自体については、その実行による競売が行われるという可能性が生じていなかったのであり、たまたまその抵当権とは別個の抵当権(一番)が実行されることとなったため、消除主義により当該抵当権(二番)も消滅する結果となるにしても、そのことについて当該抵当債務者である賃借権者には何ら責められるべき理由はないものといわざるを得ず、したがって、当該賃借権者が本来競落人に対しても対抗し得る権利を有していた自己の賃借権を主張し得なくなるものと解する根拠はないものというべきである」すなわち、この場合には、賃借人は賃借権を買受人に対抗することができるのである。



二、東借連夏季研修会でも勉強されたことと思います。復習のつもりでもう一度どうぞ。




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*建物の転貸人の転貸賃料債権に抵当権者の差押が認められなかった事例

2007/02/11 03:45

判例紹介



 抵当権が設定されている建物の賃借人(転貸人)が転借人に対して有する転貸賃料債権について、抵当権者がなした抵当権に基づく物上代位による債権差押命令の申立が認められなかった事例最高裁判所第2小法廷平成12年4月14日決定。判例時報1714号61頁)



(事案の概要)
 XはA所有の建物(以下本件建物という)に根抵当権を設定したが、その後、YがAから本件建物を賃借し、Yはさらに本件建物をBに転貸した。Xは、YがBに対して有する転貸賃料の支払請求権(転貸賃料債権)について根抵当権に基づく物上代位による債権差押命令を申立て、この申立が認められた。そこで、Yは、この債権差押命令に対して不服申立(執行抗告)をしたが、原審は、抵当権設定後の賃借人が抵当不動産を転貸した場合、抵当権者は、転貸賃料債権に対しても抵当権に基づく物上代位権を行使できるとして抗告を棄却したため、Yは、右抗告棄却決定には法令違反があるとして最高裁判所に執行抗告の許可を申立てた。



(判決)
 本判決は、(1)民法372条で抵当権に準用される同法304条1項の「債務者」には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれない。規定の上からもそうであるし、所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的責任を負担するが、抵当不動産の賃借人はこのような責任を負担せず、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供される立場にはない。
 (2)転貸賃料債権を物上代位の目的にできるとすると、正常な取引により成立した抵当不動産の転貸借関係における賃借人(転貸人)の利益を不当に害することになる、との理由で「抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得すべき転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない」として、原決定を破棄し、原審に差し戻した。



(寸評)
 最高裁判所は平成元年10月27日判決で抵当権に基づく物上代位権の行使として抵当不動産の賃料の差押ができることを認めた。この判決後、バブル経済の崩壊に伴う不動産価格の暴落により抵当不動産の換価では債権の回収が不可能になったこともあって、債権回収のための抵当権者による抵当不動産の賃料の差押が増加した。これに対して物上代位を回避するため転貸借を仮装する者も出現し、本件のように抵当不動産の賃借人がこれを転貸して得ている転貸賃料についても差押ができるか否かが新たな争点として浮上した。これについては非定説・限定肯定説と学説・裁判例が区々に別れているが、本決定は、非定説の立場で最高裁として初めての判断を示したものである。




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競売で建物を買受けた者に、その敷地の賃借権は取得しないとした事例

2007/02/10 01:18

判例紹介



不動産競売手続で建物を買受けた者に対して、その敷地の賃借権を取得しないとして、建物の収去義務を認めた事例 最高裁第三小法廷・平成12年12月19日判決。インターネット速報)



(事案)
 一、 Aは、Bから同人の所有する土地(本件土地)を含む宝町1丁目16番2の土地の一部及び同番14の土地を賃借していたが、Bの死亡によりその相続人Cと昭和49年5月23日、改めて賃貸借契約を締結した。



 二、Aは、昭和51年5月頃、本件土地上に建物(本件建物)を建築することとし、前妻の子であるD名義で建築確認申請をし、同年11月に完成した。昭和52年2月28日、本件建物は、家屋補充台帳にDを所有者として登録された。以後、Aは本件建物に課税された固定資産税をDの名義で支払い、家屋台帳への登録を事後的に承認していた。



 三、本件建物について、昭和62年4月17日Dを所有者とする所有権保存登記がされた。保存登記はDが、その所有権を証する書面として、建築請負人である工務店の建築工事完了引渡証明書、工事代金領収証、取締役会議事録とともに、固定資産税課税台帳登録事項証明書を提出して手続したもので、Aの知らないうちにされたものであるし、AはDが本件建物の登記名義を有することについては、これを黙示的にせよ承認したことはなかった。



 四、Dは昭和62年10月、本件建物をAの五女の夫であるEに売買を原因とする所有権移転登記手続をした。



 五、Eは、昭和62年10月26日本件建物につき、Fとの間で根抵当権設定契約を締結し、権利者をF、極度額を1000万円、債権の範囲を金銭消費貸借取引等とする根抵当権設定登記手続をした。Fは本件保存登記及びE名義の所有権移転登記を信頼したことにつき善意無過失であった。



 六、Fは、前記根抵当権に基づき平成2年3月、東京地裁に本件建物の不動産競売の申立をし、不動産開始決定がなされた。乙(被上告人)は平成6年11月15日、右不動産競売申立事件において本件建物を買い受け、同月16日所有権移転登記手続をした。



 七、甲(上告人)は、昭和53年5月にAと結婚した。Aは平成元年5月2日、甲に対し、本件土地の賃借権を含む財産を贈与した。



 右の事実関係をもとに甲は乙に対し、本件土地について有する賃借権に基づき、本件土地の所有者の所有権に基づく返還請求権を代位行使して、本件建物を収去、土地明渡等を求めていた事案。



(判旨)
  「…建物について抵当権を設定した者がその敷地の賃借権を有しない場合には、右抵当権の効力が敷地の賃借権に及ぶと解する理由はなく、右建物の買受人は民法94条2項、110条の法意により建物の所有権を取得することとなるときでも、敷地の賃借権自体についても右の法意により保護されるなどの事情のない限り、建物の所有権とともに敷地の賃借権を取得するものではない…」




(東借連常任弁護団)


東京借地借家人新聞より



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最高裁判決(2005年12月16日)と消費者契約法の活用

2007/02/06 10:50

  最高裁判決(2005年12月16日)と消費者契約法の活用


 原状回復をめぐる法的争いは、
 @「原状回復」の文言は社会通念上通常の方法により目的物の使用収益をしている限り、原則として返還時の状態で返還すれば足り、通常損耗について原状回復義務はないという解釈論
 A通常損耗を含む明文化された原状回復特約は新たな義務を設定する規定であるから、賃借人が義務の内容を認識し、その義務負担を意思表示していることが必要という意思表示論
 B通常損耗を借主が負担するという原状回復特約が民法90条(公序良俗)違反や、消費者契約法10条に違反し無効であるとする効力論、 以上三つ段階を追って争われてきた。


 最高裁(2005年12月16日判決)は@の見解を採用し、通常損耗の修復費用は家賃の中に含まれており、これらの費用は「貸主負担」が原則であり、これを借主に負担させることは許されないとした。この原則に反して通常損耗の修復費用を借主に負担させる原状回復特約は家賃の二重取りであり、借主に「不当な負担」を課するものである。従って、判決では原状回復特約が認められる条件を厳しく制限した。


 最高裁はAの見解から「賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それらの合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である」と述べ、例外的に通常損耗の補修費用を借主に負担させる場合の基準を示した。これにより最高裁判決は@とAの法的争いに終止符を打った。


 このような厳しい成立要件の下でのみ特約が認められ、現実的には通常損耗を借主に負担させる不当な原状回復特約の排除を意図している。


  Bに関しては、住宅供給公社と争って原状回復特約は民法90条の公序良俗に違反して無効という借主勝訴の大阪高裁(2004年7月30日)判決がある。


 また、原状回復特約は、消費者契約法10条に違反して無効という判決は2004年の画期的な京都地裁(3月16日及び6月11日判決)の二つの判決から始まり、大阪高裁(2004年12月17日、2005年1月17日、同年4月20日、同年12月8日判決)で既に4例の借主勝訴の判決が出ている。


 またそれに加えて敷引特約は消費者契約法10条違反の判決は、2005年の大阪地裁(4月20日判決)、神戸地裁(7月14日判決)から始まり、2006年に入り大津(6月28日判決)・京都(11月8日判決)・大阪(12月15日判決)と立続けに借主勝訴判決が出ている。大阪地裁の3例を含めて、既に関西を中心に6例の判決が下されている。


 消費者契約法10条を適用した一連の判決は、特約の成立を認定した上で、その特約条項の不当性に着目し、その特約自体の違法性を認定するという画期的なものである。従って契約時における特約の説明の有無、署名・捺印等、借主の意思表示の有無等は特約の有効性の判断に関係しない。あくまでも特約の内容によって判断される。特約の内容が借主の義務を加重するものであり、且つ借主に一方的に不利益なものであれば消費者契約法10条により無効とされる。不当な特約を押し付ける賃貸借契約であっても消費者契約法で救済可能ということになる。


 このように消費者契約法は居住用の原状回復特約・敷引特約に関しては借主にとっては強力な味方へと確実に成長して来たことが判る。


 だが、営業用借家(店舗・事務所等)に関しては、通常損耗を借主の負担とする原状回復特約の成立を認め、借主に修復費用を負担させる判例が多い。問題は、消費者契約法が営業用の借家には適用出来ないという弱点があり、営業用借家には無力であるということである。


 しかし、営業用借家に関して最高裁(2005年12月16日)判決以後新しい動きが出て来た。店舗の原状回復特約を不成立とする借主勝訴の大阪高裁(2006年5月23日)判である。


 大阪高裁判決は前記最高裁判決を引用した後に「賃貸物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものであって、営業用物件であるからといって通常損耗に係る投下資本の減価の回収を原価償却費や修繕費の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行うことが不可能であることはできず、また、被控訴人(貸主)が主張する本件賃貸借契約の条項を検討しても、賃借人が通常損耗について補修費用を負担することが明確に合意されているということはできないから、被控訴人の上記主張は、採用することができない。」として貸主が主張する「営業用と居住用」を区別する考えかを否定した。その上で営業用借家に関して原状回復特約の合意成立に最高裁の限定的な認定基準で判断したことである。


 阪神大震災時における敷引特約の適用を否定した最高裁(1998年9月3日)判決では「居住用家屋の賃貸借契約における敷金につき」と対象を居住用に限定していた。今回の最高裁判決(2005年12月16日)は、通常損耗を含む原状回復特約の合意成立に関しては居住用と限定していない。営業用と居住用の区別せずに、営業用借家も借家一般として同様の基準で認定すべきとい態度を基本にしている。これは注目に値する借主保護の認定基準である。


  原状回復特約以外に、@賃料改定合意、A更新料支払特約、B保証金・敷金償却特約、C使用損害金倍額支払特約、D明渡し合意、E地上げ・時下げ合意等に活用が考えられる。




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最高裁2005年12月16日判決の意義 (5)

2007/02/05 11:11
通常損耗を賃借人負担とすることは原則として許されない

〜画期的な最高裁判決が出る!〜

大阪支部  増 田   尚



 最高裁第二小法廷(中川了滋裁判長)は、2005年12月16日、大阪府住宅供給公社の特優賃物件での敷金返還請求訴訟で、通常損耗を賃借人負担とする特約が成立しており修繕費用の控除は正当であるとして賃借人の敷金返還請求を棄却した原判決を取り消し、審理を大阪高裁に差し戻す判決を言い渡した。


 この事案は、大阪の弁護士及び司法書士らで結成された敷金問題研究会が、結成当初の2002年10月にいっせいに提起した訴訟の一つであった。当時、原状回復費用と称して実質的には賃借人が負担すべきでないリフォーム費用を請求する事例が多発しており、中でも、特優賃物件の相談件数が目立っていた。


 もともと、大阪府住宅供給公社は、地方住宅供給公社法に基づき設立された法人であり、住宅の賃貸業務を遂行するに当たり、住宅を必要とする勤労者の適正な利用が確保され、かつ、賃貸料が適正なものとなるように努めなければならないとされている(同法22条)。そのような、いわば「家主の鑑」ともなるべき住宅供給公社が通常損耗を賃借人の負担であるとして請求していることは、社会的にも問題視された。


 しかし、裁判の壁は厚かった。何しろ、大阪府住宅供給公社は、修繕箇所を事細かに分割して、その大半の修繕を賃借人の負担とする「修繕費負担区分表」なる書面を別冊として用意しており、契約書本文には明渡時には、この区分表に基づいて補修費用を賃借人が負担すると記載していた。時期によっては、この区分表の冒頭に、「上記区分表については承知しております」と不動文字で記載し、そこに賃借人の署名捺印を求めるなど、賃借人に通常損耗の修繕費用を負担させるための用意周到ぶりは、民間の業者も顔負けであった。このガチガチの契約書・区分表を前に、大阪地裁(吉川愼一裁判官)、大阪高裁(横田勝年裁判長)とも、通常損耗の修繕費用を賃借人が負担するとの特約が成立しているときわめて形式的に判断して、賃借人を敗訴させた。


 しかし、率直に言って、このようなやり方は、地方住宅供給公社として恥ずべきものであるといわなければならない。政府は、1993年に賃貸住宅標準契約書を整備し、退居時の原状回復の範囲から自然損耗を除外することを明確にし、1998年には、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を制定して、退居時の原状回復について、範囲と基準、賃借人が負担すべき割合について基本的な考え方を示した。また、建設省住宅局長は、特優賃法の施行に先立ち、各都道府県知事に宛てて、「特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律の運用について」と題する通達を発出し、特優賃貸住宅における賃貸住宅契約書は、特定優良賃貸住宅賃貸借契約書によることを求めた。これは、後記標準契約書を特定優良賃貸住宅に使用できるよう若干の修正を加えたものである。にもかかわらず、「家主の鑑」になるべき住宅供給公社が通常損耗を賃借人に負担させることは、まったく納得がいかなかった。


 敷金はよほどの不始末がなければ原則として返還されるべきものであり、ふつうに暮らしていれば生じる汚れ・傷について、その修繕費用を返還されるべき敷金から控除されることはない。まして、特優賃物件であり、賃借人も大阪府住宅供給公社である。民間ならあり得べき「ぼったくり」があろうはずもない―というのが賃借人の一般的な感覚である。退居時に修繕費負担区分表をにわかに持ち出し、特約があるとして一方的に通常損耗の修繕費用を控除するのは、まさに「不意打ち」というほかない。そうした賃借人の感覚に適合した法解釈こそ求められるのではないか。そう考えて、賃借人は上告した。


 上告受理申立理由は、(1)特約が成立していないこと、(2)成立したとしても特優賃法などに違反し公序良俗に反して無効であること、(3)判例違反、(4)法令違反など、あらゆる主張を駆使した。(1)については、賃貸借契約が使用収益と賃料支払が対価関係に立つ契約であり、目的物を通常に利用したことによる価値の減少は賃料によって補償されるとみるべきであり、目的物の修繕義務を原則として賃貸人が負うとなっていること、このような民法の原則や社会通念に反する特約は、賃借人にとっていわば「不意打ち」になるので、その認定には慎重になるべきであること、契約書や区分表の記載だけでは、賃借人が負担すべき範囲が明らかでなく、入居者説明会の説明も不十分であったこと、などを主張した。また、幸い、(2)については、上告申立理由書提出直前の2004年7月30日に、大阪高裁(小田耕治裁判長)が大阪府住宅供給公社を相手取った敷金返還請求訴訟で、このような特約が公序良俗に反し無効であるとの判決を言い渡したので、大いに主張を補充することができた。


 しばらくして、最高裁第二小法廷より、上告受理申立書記載の理由のうち(1)以外を排除して受理する決定が届いた。私たちは、特約の成立を認めた原審大阪高裁判決が見直されるものとして、大いに期待した。果たせるかな、最高裁判決は、通常損耗の修繕費用を賃借人に負担させる特約は、原則として許されないとの画期的な判断を示した。


 本判決は、「賃借人は、賃貸借契約が終了した場合には、賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ、賃貸借契約は、賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ、物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている」として、賃貸借契約においては、通常の使用による目的物の価値の減少は賃料によってまかなわれており、通常損耗の修繕費用は、原則として、賃貸人が賃料から負担すべきであるとの考え方を示した。そのような基本的な考え方から、「建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになる」と述べ、賃料以外の方法によって通常損耗の修繕費用を賃借人に負わせるのは、「賃借人に予期しない特別の負担」であると言い切った。「不意打ち」と多くの賃借人の感覚にマッチした指摘であるといえる。


 また、本判決は、「賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約…が明確に合意されていることが必要である」と述べ、例外的に通常損耗の修繕費用を賃借人に負担させる場合の基準を示した。


 その上で、本判決は、大阪府住宅供給公社の賃貸借契約書及び別冊である修繕費負担区分表について、「通常損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとはいえない」などとして、通常損耗の範囲が条項自体に具体的に明記されておらず、入居者説明会における口頭説明についても、「通常損耗補修特約の内容を明らかにする説明はなかった」として、賃借人が特約を明確に認識し、合意の内容としたとは認められないと判断した。


 原状回復をめぐる法的紛争は、(1)「原状に復して明け渡す」などの文言を賃貸借契約締結当時の状態にするのではなく、通常の用法に従って使用したことによる損耗や経年劣化については含まれないとする解釈論、(2)原状回復義務に通常損耗を含むとの明文化された契約条項について「明確に認識して自由な意思に基づき契約したか」どうかという意思表示論、(3)通常損耗を賃借人負担とする原状回復特約が民法90条や消費者契約法10条に違反し無効であるとする効力論、の三つの段階を追って争われてきた。


 本判決は、第二段階である意思表示をめぐる争いに終止符を打つ意義を有している。大阪府住宅供給公社の負担区分表は相当に詳細であり、これでも「通常損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとはいえない」と評価されたのであるから、不動産業者サイドとしても、およそ契約書に明記することなどできないといってよいであろう。


 また、本判決は、消費者契約法の適用前後を問わず、詳細に規定して通常損耗の修繕費用を賃借人に負担させる特約の成立を阻むものであり、不当な原状回復費用の請求から賃借人を幅広く救済する効果を有しているといえる。本判決と消費者契約法10条が相俟って、こうした原状回復特約を封じ込めることが期待される。


 私たち敷金問題研究会は、早速、大阪府住宅供給公社に対し、(1)契約書及び区分表の見直し、(2)将来の退居者から通常損耗の修繕費用を徴求しないこと、(3)過去の控除についても点検して不当利得があれば返還すること、を申し入れた。同公社の対応が注目される。また、他の地方住宅供給公社についても、同様の原状回復特約がなされていないかどうかを点検し、改善を申し入れることを検討している。


 私たち敷金問題研究会は、本判決を最大限に活用し、賃貸住宅契約において、標準契約書やガイドラインに従って、原則論である「通常損耗は賃貸人負担」を徹底するよう求めていく次第である。


 なお、合わせて、12月16日、原状回復特約を公序良俗に反し無効であるとした大阪高裁判決について、大阪府住宅供給公社の上告受理申立てを受理せず、上告を棄却する決定がなされ、同判決が確定したことも報告しておく。


             自由法曹団通信 1183号




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最高裁判決(2005年12月16日) (4)

2007/02/04 10:57

最高裁判決で通常損耗は
      貸主の費用負担が原則であることが確認された



  国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、通常損耗の修復費用を借主に負担させる原状回復特約についての判例の動向は
 「賃貸物件の通常の使用による損耗、汚損はその家賃によってカバーされるべきで、その修繕等を賃借人の負担とすることは、賃借人に対し、目的物の善管注意義務等の法律上、社会通念上当然に発生する義務とは趣を異にする新たな義務を負担させるというべきである、特約条項が形式上あるにしても、契約の際その趣旨の説明がなされ、賃借人がこれを承諾したときでなければ、義務を負うものではないとするのが大半であり、特約の成立そのものが認められない事案が多い。」と解説されている。



 また、東京都の「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」は、退去時の修復費用に関して
 「賃貸住宅の契約においては、通常損耗や経年変化などの修繕費は、家賃に含まれるとされており、貸主が負担するのが原則です」と説明され、従来からの判例動向に基づいて通常損耗の修復費用は貸主負担が原則であると解説している。



 今回の最高裁判決は、通常損耗の修復費用に関して
 「建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている」と指摘し、通常損耗の修復費用は家賃の中に含まれており、これらの費用は貸主負担が原則であることが確認された。



 この原則に反して通常損耗の修復費用を借主に負担させる原状回復特約は、家賃の二重取りであり、借主に「不当な負担」を課すものである。従って最高裁判決では、原状回復特約が認められる成立要件を厳しく制限し、「賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である」と判示した。最高裁は、それらの成立要件が認められない場合は通常損耗を含む原状回復義務を借主に負担させることが出来ないと判断した。



 最高裁判決は、このような厳しい成立要件の下でのみ特約の効力を承認したものであり、現実には通常損耗・自然損耗の修復費用を借主に負担させる不当な原状回復特約を排除することを意図していると見るべきである。



 この最高裁判決によって不当な原状回復特約による修復費用負担から借主が幅広く救済され、原状回復特約が賃貸市場から根絶されることを期待したい。 





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2005年12月16日最高裁判決 (3)

2007/02/03 10:52

通常損耗は貸主の修繕費用負担が原則



 建物賃貸借で普通に暮らしていて生じた床や壁の汚れ、傷等の所謂「通常損耗」を賃借人の費用負担で行なう「原状回復特約」が有効かどうかで争われた敷金返還請求訴訟で最高裁は、
通常損耗の修繕費用を賃借人に負担させる特約は原則として許されないという画期的な判断を示した。



 最高裁の判決は、通常損耗に関して「建物の賃貸借においては賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行なわれている」と指摘し、通常損耗の修繕費用は家賃に含まれるという原則が確認された



  この原則に反して、これらの修繕費用を賃借人に負担させる特約を「原状回復特約」という。賃借人にとっては、この特約は家賃の二重払いを強いるものであり、賃借人には不利益な特約と言える。



最高裁は、この「原状回復特約」が認められる条件として「賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸契約書では明らかではない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である」とされた。最高裁は、それらの条件が認められない場合は通常損耗を含む原状回復義務を賃借人に負担させることが出来ないという初判断を示した。



これらに関しては従来からか下級審で通常損耗を含む明文化された「原状回復特約」が成立するためには、
@客観的理由の存在が必要
A特約による修繕義務を負うことを認識していること
B義務負担の意思表示をしていること、
以上の要件を具備し、自由意思に基づき契約をしたことが必要であるとしていた。



このような意思表示論によって「特約」の成立に制約を設け、これらの要件を充たしていない場合は「特約」の有効性を否定し、その特約を無効とした。(伏見簡裁1995年7月18日判決、伏見簡裁1997年2月25日判決、仙台簡裁1996年11月28日判決、神戸地裁尼崎支部2003年10月31日判決、大阪高裁2003年11月21日判決、大津地裁2004年2月24日判決)。



今回の最高裁の判決は、これら下級審の判例理論を追認したものであるが、更に特約の成立に厳しい制限を加えた例外的な基準を設け、不当な「原状回復特約」による費用負担から賃借人を幅広く救済する効果が期待される。



         最高裁2005年12月16日判決全文





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原状回復特約に対する最高裁判決(2005年12月16日) (2)

2007/02/02 10:44
 

   最高裁判決全文



 判例 平成17年12月16日 第二小法廷判決 平成16年(受)第1573号 敷金返還請求事件



 要旨
 賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負う旨の特約が成立していないとされた事例



 内容
  件名   敷金返還請求事件 (最高裁判所 平成16年(受)第1573号 平成17年12月16日 第二小法廷判決 破棄差戻し)
  原審   大阪高等裁判所 (平成15年(ネ)第2559号)



                          主    文
 原判決を破棄する。
 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。



                           理    由



 上告代理人岡本英子ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
  原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。



 (1) 被上告人は,地方住宅供給公社法に基づき設立された法人である。



 (2) 第1審判決別紙物件目録記載の物件(以下「本件住宅」という。)が属する共同住宅旭エルフ団地1棟(以下「本件共同住宅」という。)は,特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律(以下「法」という。)2条の認定を受けた供給計画に基づき建設された特定優良賃貸住宅であり,被上告人がこれを一括して借り上げ,各住宅部分を賃貸している。



 (3) 被上告人は,平成9年12月8日,本件共同住宅の入居説明会を開催した。同説明会においては,参加者に対し,本件共同住宅の各住宅部分についての賃貸借契約書,補修費用の負担基準等についての説明が記載された「すまいのしおり」と題する書面等が配布され,約1時間半の時間をかけて,被上告人の担当者から,特定優良賃貸住宅や賃貸借契約書の条項のうち重要なものについての説明等がされたほか,退去時の補修費用について,賃貸借契約書の別紙「大阪府特定優良賃貸住宅and・youシステム住宅修繕費負担区分表(一)」の「5.退去跡補修費等負担基準」(以下「本件負担区分表」という。)に基づいて負担することになる旨の説明がされたが,本件負担区分表の個々の項目についての説明はされなかった。 上告人は,自分の代わりに妻の母親を上記説明会に出席させた。同人は,被上告人の担当者の説明等を最後まで聞き,配布された書類を全部持ち帰り,上告人に交付した。



 (4) 上告人は,平成10年2月1日,被上告人との間で,本件住宅を賃料月額11万7900円で賃借する旨の賃貸借契約を締結し(以下,この契約を「本件契約」,これに係る契約書を「本件契約書」という。),その引渡しを受ける一方,同日,被上告人に対し,本件契約における敷金約定に基づき,敷金35万3700円(以下「本件敷金」という。)を交付した。 なお,上告人は,本件契約を締結した際,本件負担区分表の内容を理解している旨を記載した書面を提出している。



 (5) 本件契約書22条2項は,賃借人が住宅を明け渡すときは,住宅内外に存する賃借人又は同居者の所有するすべての物件を撤去してこれを原状に復するものとし,本件負担区分表に基づき補修費用を被上告人の指示により負担しなければならない旨を定めている(以下,この約定を「本件補修約定」という。)。



 (6) 本件負担区分表は,補修の対象物を記載する「項目」欄,当該対象物についての補修を要する状況等(以下「要補修状況」という。)を記載する「基準になる状況」欄,補修方法等を記載する「施工方法」欄及び補修費用の負担者を記載する「負担基準」欄から成る一覧表によって補修費用の負担基準を定めている。このうち,「襖紙・障子紙」の項目についての要補修状況は「汚損(手垢の汚れ,タバコの煤けなど生活することによる変色を含む)・汚れ」,「各種床仕上材」の項目についての要補修状況は「生活することによる変色・汚損・破損と認められるもの」,「各種壁・天井等仕上材」の項目についての要補修状況は「生活することによる変色・汚損・破損」というものであり,いずれも退去者が補修費用を負担するものとしている。また,本件負担区分表には,「破損」とは「こわれていたむこと。また,こわしていためること。」,「汚損」とは「よごれていること。または,よごして傷つけること。」であるとの説明がされている。



 (7) 上告人は,平成13年4月30日,本件契約を解約し,被上告人に対し,本件住宅を明け渡した。被上告人は,上告人に対し,本件敷金から本件住宅の補修費用として通常の使用に伴う損耗(以下「通常損耗」という。)についての補修費用を含む30万2547円を差し引いた残額5万1153円を返還した。



  本件は,上告人が,被上告人に対し,被上告人に差し入れていた本件敷金のうち未返還分30万2547円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案であり,争点となったのは,@ 本件契約における本件補修約定は,上告人が本件住宅の通常損耗に係る補修費用を負担する内容のものか,A @が肯定される場合,本件補修約定のうち通常損耗に係る補修費用を上告人が負担することを定める部分は,法3条6号,特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律施行規則13条等の趣旨に反して賃借人に不当な負担となる賃貸条件を定めるものとして公序良俗に反する無効なものか,B 本件補修約定に基づき上告人が負担すべき本件住宅の補修箇所及びその補修費用の額の諸点である。



  原審は,前記事実関係の下において,上記@の点については,これを肯定し,同Aの点については,これを否定し,同Bの点については,上告人が負担すべきものとして本件敷金から控除された補修費用に係る補修箇所は本件負担区分表に定める基準に合致し,その補修費用の額も相当であるとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。以上の原審の判断のうち,同@の点に関する判断の概要は,次のとおりである。



 (1) 賃借人が賃貸借契約終了により負担する賃借物件の原状回復義務には,特約のない限り,通常損耗に係るものは含まれず,その補修費用は,賃貸人が負担すべきであるが,これと異なる特約を設けることは,契約自由の原則から認められる。



 (2) 本件負担区分表は,本件契約書の一部を成すものであり,その内容は明確であること,本件負担区分表は,上記(6)記載の補修の対象物について,通常損耗ということができる損耗に係る補修費用も退去者が負担するものとしていること,上告人は,本件負担区分表の内容を理解した旨の書面を提出して本件契約を締結していることなどからすると,本件補修約定は,本件住宅の通常損耗に係る補修費用の一部について,本件負担区分表に従って上告人が負担することを定めたものであり,上告人と被上告人との間には,これを内容とする本件契約が成立している。



  しかしながら,上記@の点に関する原審の上記判断のうち(2)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。



 (1) 賃借人は,賃貸借契約が終了した場合には,賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ,賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は,通常,減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると,建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。



 (2) これを本件についてみると,本件契約における原状回復に関する約定を定めているのは本件契約書22条2項であるが,その内容は上記1(5)に記載のとおりであるというのであり,同項自体において通常損耗補修特約の内容が具体的に明記されているということはできない。また,同項において引用されている本件負担区分表についても,その内容は上記1(6)に記載のとおりであるというのであり,要補修状況を記載した「基準になる状況」欄の文言自体からは,通常損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとはいえない。したがって,本件契約書には,通常損耗補修特約の成立が認められるために必要なその内容を具体的に明記した条項はないといわざるを得ない。被上告人は,本件契約を締結する前に,本件共同住宅の入居説明会を行っているが,その際の原状回復に関する説明内容は上記1(3)に記載のとおりであったというのであるから,上記説明会においても,通常損耗補修特約の内容を明らかにする説明はなかったといわざるを得ない。そうすると,上告人は,本件契約を締結するに当たり,通常損耗補修特約を認識し,これを合意の内容としたものということはできないから,本件契約において通常損耗補修特約の合意が成立しているということはできないというべきである



 (3) 以上によれば,原審の上記3(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,通常損耗に係るものを除く本件補修約定に基づく補修費用の額について更に審理をさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。



(裁判長裁判官 中川了滋 裁判官 滝井繁男 裁判官 津野 修 裁判官 今井 功 裁判官 古田佑紀)





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通常損耗を含む「原状回復特約」に最高裁が初判断 (1)

2007/02/01 12:14

 最高裁は特約の成立要件を制限し
              借主の原状回復特約からの救済を図る



(問) 2005年12月16日の新聞に「通常損耗は借主に負担義務なし最高裁が初判断」と大々的に報じられたが、どんな判断があったのか。


 
(答) 東京都の「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」は「通常損耗や経年変化などの修繕費は、家賃に含まれているとされており、貸主が負担するのが原則です」と説明している。この原則に反して、これらの修繕費用を借主に負担させる特約を「原状回復特約」という。借主にとっては、この特約は家賃の二重払いを強いるものである。


 裁判は通常損耗を含む「原状回復特約」の有効性に関して争われた。(注1)


 貸主である大阪府住宅供給公社は入居時に交わした契約書の中に「傷や汚れについては、負担区分表に基づいて借り手が負担する」との特約に基づいて、敷金約35万円から修繕費30万円を差引いた。借主は「契約時の説明が不十分で、特約に合意したつもりはない」として敷金約30万円の返還を求めた。


 それに対して最高裁は「通常損耗に係る投資資本の減価の回収は、通常減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払いを受けることにより行なわれている」と判断した。通常使用の汚れ、傷等の通常損耗は家賃に含まれるという原則が今回の最高裁で確認された。


 この原則に反する「原状回復特約」が認められる条件は「通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、」そうでない場合は「賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である」とされた。


 最高裁は、それらの条件が認められないと通常損耗を含む原状回復義務を賃借人に負担させることは出来ないという初判断を示した。その上で、敷金から通常損耗分を差引いた大阪府住宅供給公社に敷金を返還する義務があると認定し、その返還額を特定するために大阪高裁に差戻した。


 従来から下級審の判例は、特約が成立するためには
 @特約によって通常の義務を超えた修繕等の義務を負うことを認識していること
 A賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていることが必要であるとしている。
 意思表示理論を用い、「原状回復特約」に対して特約の成立条件に制限を設け、その要件を充たさない場合、特約は無効とされる。(注2)


 今回の最高裁判決は意思表示理論を用いた下級審の判例理論を追認したものである。


 最高裁の判断により、今後、貸主は原状回復特約を一方的に契約書に書き入れても、特約の成立要件を充たしていないと特約が無効になり、借主に費用負担させることが困難になることは間違いない。


 


 (注1)今回と同様に通常損耗を含む「原状回復特約」の有効性に関して争われた兵庫県住宅供給公社の裁判の結果はこちらを参照。


 (注2) 通常使用による自然損耗を借主に費用負担させるには「賃借人がこの義務について認識し、義務負担の意思表示をしたことが必要である」(仙台簡易裁判所1996年11月28日判決)以上の要件を充たしていなければならない。そうでない場合は、契約書に原状回復費用負担特約があっても借主の故意・過失・善管注意義務違反がなければ特約に従う必要はない。


 
     最高裁の判決文全文はここから



 
追記
 敷金返還訴訟差し戻し審 公社から解決金25万円で和解


 2006年05月18日 朝日新聞より



 大阪府住宅供給公社の賃貸マンション(同府茨木市)を借りた30代男性が、普通に暮らしていて生じた部屋の傷や汚れの修繕費を敷金から差し引かれたのは不当だとして、同公社に約30万円の返還を求めた訴訟の差し戻し審が18日、大阪高裁(田中壮太裁判長)で和解した。公社側が解決金として25万円を支払うことで合意した。昨年12月、最高裁が「修繕費などは本来賃料に含まれる」とする初の司法判断を示し、審理を同高裁に差し戻していた。


 男性は同マンションに98年2月から3年2カ月間入居し、退去時に敷金35万3700円から修繕費として30万2547円を差し引かれた。このため、02年10月に提訴した。


 公社側は、契約時にふすまの汚れや床の変色など細かく借り手に負担を求める「修繕費負担区分表」を男性に渡し、承諾を得ていたと主張。一、二審判決は男性の訴えを退けたが、上告審判決は「通常の汚れや傷も含む趣旨とはいえない」として、修繕費を確定させるために同高裁に差し戻していた。


 原告側代理人の一人、増田尚弁護士は公社側が請求額に近い金額を支払う「勝訴的和解」と指摘したうえで、「今後、同じように修繕費負担を求める別の公社でも区分表の見直しが進むのではないか」と話した。


 大阪府住宅供給公社の話 和解条項について適切に対応したい。




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